WSETでは、特定の栽培方法、醸造方法、熟成方法を詳述する問題が出ます。
栽培方法に加え、この醸造・熟成の部分も、基本をしっかり押さえて全て説明できるようにならないと、記述問題に対応できないと思いました。
例えば、こういう問題。
「プレミアムなシャルドネの生産者がワイン造りによく見られるテクニックを2つあげてください。」
「リースリングが持つ本来の果実の風味を損なわないために, 醸造の過程において生産者が取り入れることができる方法を3つあげ、 説明しなさい。」
醸造・熟成で行われる工程ひとつひとつをしっかりと説明できなければいけません。
上記のシャルドネの問題であれば、例えば「マロラクティック発酵をする、樽で熟成させる。」これでは満点は取れません。
「マロラクティック発酵とは何か?」
「それによりワインスタイルにどういう効果をもたらすか?」
「樽の種類は何か?」
「樽を使用することによりワインがどう変化するか」
まで落とし込まなければいけないのです。
もうひとつ大事なことは、アロマティック品種とニュートラル品種では、醸造工程のオプションが変わってくるため、このオプションはアロマティック、ニュートラルどちらで行われる工程なのかを理解し、そのオプションの内容を説明できないといけないようです。(上記のサンプル問題では、シャルドネはニュートラル品種、リースリングはアロマティック品種に分類されます)
を、踏まえて、完全に頭に入れなければいけない醸造・熟成についてポイントをまとめました。
<WSET Level3>白ワインの醸造と熟成において、重要な要素とポイント
酸素の役割り
「酸化」と呼ばれる化学反応を起こす。
これはワインにプラスに働くこともあれば、マイナスになることもある。
第一アロマ、果実の風味を大事にしているワインの醸造においては、酸素は脅威となる。
ワインの醸造における酸素
<酸化させないための対策>
1.亜硫酸などの酸化防止剤を加える。
2.温度を下げて酸化のスピードを減らす。
→温度が低いと酸化の化学反応が遅くなることを利用し、夜間に果実を収穫したりする場合がある
→ブドウの実をワイナリーに到着するまで冷やした状態にしておく。
3.酸素との接触を最小限にとどめるための努力をする(嫌気処理)
→ブドウを二酸化炭素か窒素を充満させた気密性の醸造装置に入れ、果粒や果汁を酸素に触れさせないようにする
“ソーヴィニョン・ブランの果実味を保つためにどういったことをするか?”という問いに対して「温度が低いと酸化の進みが遅くなるので、夜間の涼しい時間に果実を収穫したり、ブドウの実をワイナリー到着まで冷やした状態にしておく」等の解答ができるように。
熟成における酸素
醸造の段階で酸素と触れさせないワインは、熟成中も同じように酸素との接触で質が高まることは稀なので、酸素と触れさせないようにする。
<酸化させないための対策は?>
・不活性タンク(ステンレスタンク・コンクリートタンク)を使用する。
<酸素を利用する場合>
・オーク樽を使用し酸素と接触(好気処理)させる
少量の酸素がオークを通って中に入り、ワインと反応する
→ワインに複雑性をもたらし、第一アロマは次第に薄れていき、第三のアロマが発達し始める
亜硫酸の役割り
・酸化防止
ぶどう果汁とワインを酸化から守る。
・殺菌効果(酸化防止剤)
細菌や野生酵母の殺菌及び増殖の阻止
マスト強化による方法
果汁の糖度が足りない場合、発酵前、または発酵中に精留凝縮ブドウマスト(RCGM)を添加し果汁の糖度をあげる方法。(マストとは発酵直前の果汁(果醪、もろみ)。)
シャプタリゼーションによる方法
ブドウ以外のもの(テンサイなど)を添加する方法。
マスト強化を許可している産地は少ない。
果汁から水分を除くことで糖度を上げる方法
水分の他、ブドウの良くない成分も濃縮してしまうことになる
補酸の方法:酒石酸の添加
減酸の方法:さまざまなアルカリの添加
アルコール発酵・マロラクティック発酵(MLF)
アルコール発酵
アルコール発酵とは
酵母の働きにより、糖がアルコールと二酸化炭素に分解されることである。
アルコール発酵を最後まで導いてくれるのは「サッカロミセス・セルビシエ」のみである。
アルコール発酵と温度
発酵中のワインの温度が高すぎると、酵母が死んでしまう。
5℃以上35℃以下の環境で発酵がおこなわれる。
<白ワイン>
白ワインの発酵に最適な温度は12〜22℃。
低温発酵は、揮発性が高く花のようなアロマが出やすい。ただ、発酵温度が低すぎると、洋梨風味のキャンディーのようなアロマがついてしまい、果実の風味を台無しにする場合がある。
高めにすると、果実風味のしないアロマの発達を促すことはできるが、果実風味の特徴を失うリスクがある。
アルコール発酵を止めるには
亜硫酸を加えて酵母を殺す
酵母を濾過して取り除く→発酵中のワインを5℃以下にして一時的に発酵を止めた後で行う
マロラクティック発酵(MLF)
マロラクティック発酵(MLF)とは
乳酸菌の働きにより、ワインの中のりんご酸が、乳酸に転化する。この発酵をマロラクティック発酵という。
MLFをやる目的
・ (ワインの酸味を減らす)
減酸の目的で行う
・(酸をまろやかにする)酸を乳酸に転化させ口当たりをまろやかにする
リンゴ酸をまろやかな乳酸に転化させることにより、口当たりがまろやかになる。
・(ワインの複雑性を増す)バターやヘーゼルナッツなどの風味を出す
乳酸菌の働きで、バターの風味を保つ香り成分が出てくる。
・(ワインの安定性を増す)MLFを経て、酸味の高いワインは自然と微生物に対し耐性を持つ
MLFで乳酸菌がワインに残った栄養素を消費することで、ワインを劣化させる微生物が使うことができる栄養素が減少するために起こる。
MLF発酵を避けるには
・低温貯蔵(18度以下にする)
・亜硫酸を加える
・乳酸菌を濾過する
などの方法がある。
使用される容器とそのメリット・デメリット
オーク樽
メリット)
ワインの熟成中にわずかな酸化が起こり、第三アロマを発達させることができる。
オークそのものから、タンニンと風味を抽出することができる。
デメリット)
酵母や細菌、カビがつかないように保つのが難しく、衛生管理が大変。
ステンレスタンク
メリット)
清潔な状態を保つことが容易である。
好きなサイズや形で作ることができる。
温度管理装置などを組み込み、ぶどう果汁やワインの温度を管理することができる。
コンクリートタンク
メリット)
温度変化が少なく、高価な温度調整装置を使わなくても発酵と熟成中の温度管理が行える
デメリット)
ステンレスタンクに比べ、洗浄とメンテナンスに手間がかかる。
その他醸造時のオプション
スキンコンタクト(果皮浸漬)
圧搾した時に、低温で数時間だけ果皮と接触させる。
なんでやるのか?
果皮にアロマや風味がついているので、そのアロマや風味をつけてあげる。
酸化を防ぐために必ずS02を添加する
果汁の清澄化
大半の白ワインは何らかの形で清澄化処理や濾過処理を行う。白ワインは色が淡いため、濁りや沈殿物がはっきり見えやすいためである。また、そのままの状態だと、果皮や果肉の細胞片から不快な臭いを発生することがあり、発酵が時期尚早に止まってしまうこともある。また、ワインに残っている酵母やバクテリアなどの微生物による感染リスクもあるため、濾過処理を行う。
澱との接触
澱とは、死んだ酵母の細胞やブドウのかけらのこと。
通常は、ワインに不快な香りが発達することがあるので、澱を取り除く作業をする。
場合によってはワインに別の風味や舌触りを加えるために、細かい澱と接触させておく方法を選ぶ。